認知症のBPSDと環境因子

認知症の方には、記憶障害や見当識障害などの「中核症状」と、不安・徘徊・興奮・抑うつといった「BPSD(行動・心理症状)」があります。日本神経学会の認知症ガイドラインでも、BPSDの治療では非薬物的介入が第一選択とされ、環境調整がBPSD改善の重要な要素として位置付けられています[1]

都市部の閉じた環境より、自然光・季節感・植物・動物などが身近にある環境は、認知症の方の精神的安定に好影響を与えるとされています。栃木県那珂川町にある葵水ケ花は、そうした「環境ケア」を実践できる立地に恵まれています。

那珂川町の自然 ── 鮎・里山・四季

那珂川町は栃木県北東部、那須郡に位置する人口約1.5万人の町です。町名の由来となった那珂川は、関東随一の清流として鮎の名所。周囲は里山と田園風景が広がり、四季の変化が鮮やかに感じられる地域です。

春は桜と新緑、夏は鮎漁と祭り、秋は紅葉と稲穂、冬は雪化粧の山々 ── 都心では失われがちな「季節を肌で感じる暮らし」が、ここにはあります。窓から見える景色そのものが、認知症ケアの一部になります。

園芸療法という非薬物的アプローチ

認知症ケアにおける環境的アプローチの代表例が、園芸療法です[2]。土に触れる・水をやる・収穫する一連の動作は、五感や手先を刺激し、脳の活性化につながります。植物の成長を見守る達成感や、季節の移ろいを感じる感性の維持は、抗うつ・抗不安効果も報告されています。

葵水ケ花では、施設周辺の自然環境を活かした散策・季節の野菜を使った調理活動・四季の行事などを日常ケアに組み込んでいます。「楽しい」「きれい」「気持ちがいい」というプラスの感情を引き出すケアが、認知症ケアの土台です。

「なじみ」が認知症の方を安定させる

認知症ケアで最も重視されるのが「なじみの関係」です。同じスタッフが継続的に関わり、声のトーン・距離感・触れ方が一貫していること。一人ひとりの好み・生活歴・大切にしているものを職員チームで共有していること。これが、ご本人の安心感の源泉になります。

那珂川町のような小規模な地域では、職員の入れ替わりも比較的少なく、長く同じスタッフが関わり続けやすい環境があります。「いつもの顔」「いつもの声」── 認知症の方にとって、この継続性は何よりの薬になります。

夜間の静けさと睡眠リズム

認知症の方は、夕方以降に不穏が強くなる「夕暮れ症候群」や、睡眠リズムの乱れに悩まされることが少なくありません。都市部の施設では、夜間も外の音や光が完全には消えず、睡眠の質が損なわれがちです。

那珂川町は夜になれば本当に静かになります。星空が見える夜、虫の音、鳥のさえずりで目覚める朝 ── こうした自然な体内リズムを取り戻す環境は、認知症の方の睡眠改善・BPSD軽減に大きく寄与します。

屋外散歩・外気浴の効果

日中の屋外散歩は、認知症ケアの基本中の基本です。日光を浴びることでメラトニン分泌のリズムが整い、夜の睡眠が深まります。歩行は身体機能の維持にもつながり、転倒リスクの低減にも効果的です。

葵水ケ花の周辺は、車通りの少ない安全な道が多く、施設スタッフの付き添いで安心して屋外を歩けます。都市部の施設では「散歩したくても外が危険」というジレンマがありますが、那珂川町ではそれが起こりにくいのです。

家族面会と「外の世界」のバランス

認知症の方にとって、ご家族の面会は大きな喜びであると同時に、終わった後の喪失感が強まる場合もあります。那珂川町という静かな環境では、面会後の感情の波も比較的穏やかに収まる傾向があります。

月1〜2回のご家族面会と、日常の安定した暮らし ── そのバランスが、認知症の方の長期的な穏やかさにつながります。

医療連携と認知症対応

葵水ケ花は、地域の協力医療機関と24時間連携体制を取っています。認知症の周辺症状に対応する精神科医・認知症サポート医とのネットワークも整い、薬物療法が必要な場合も適切に対応できます。

基本は非薬物的アプローチ、必要なときは医療と連携 ── このバランス感覚が、認知症ケアの質を支えます。

2027年の共生型39床拡大に向けて

葵水ケ花は、2027年4月から共生型特養39床への拡大を予定しています。共生型化により、認知症高齢者だけでなく、障がいのある方・若年認知症の方など、より多様なケアニーズに対応できるようになります。

多様な人が暮らす共生型の環境は、認知症の方にとっても日常的な刺激と交流の場となります。「同質の人だけが集まる空間」より、「いろんな人が混じり合う空間」のほうが、認知症の方の活力を保ちやすいことが、ヴィラきみかげ荘での20年の実践から見えてきています。

まずは見学から

那珂川町の空気、施設の雰囲気、職員の声 ── 写真や動画では伝わらない要素が、認知症ケアの質を決めます。葵水ケ花の見学は事前予約制で随時受付。新幹線でお越しいただければ日帰りで十分対応可能です。

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この記事を書いた人
葵水ケ花 介護スタッフ・生活相談員チーム
栃木県那珂川町の自然環境を活かした認知症ケアを実践。直通0287-92-1530。著者プロフィール →
出典・参考文献
  1. 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン」PDF/DCNet「BPSDの軽減に資するケアの基本的考え方とケアの取り組みプロセス」PDF
  2. 日本農芸化学会誌「認知症高齢者への園芸活動が認知機能面にもたらす効果」論文PDF